RESEARCH CONCEPT

RESONANT INTERACTIONS BETWEEN LIGHT AND BIOMOLECULES

研究戦略

Ⅰ.基本的な研究戦略

領域代表者・計画研究代表者ともに、自らの系で、分子(A01)も光(A02)も使いこなすことができる。A01とA02の担当分類はあくまでも便宜的である。また、領域代表者・計画研究代表者ともに、自らバイオイメージング技術を創出しProof of Conceptを実証することができる。開発と実践を明確に区別しない方針である。本領域の計画研究は、異なる技術や知識が結集するべき最小サイズのコアであり、この中でいろいろなニーズとシーズが双方向的に相互作用して新しいバイオイメージング技術が生まれることを期待する。ただしすべてをボトムアップに任せるのでなく、計画研究代表者全員が頭を捻る重要テーマをいくつか掲げて取り組んでいく。

異なる技術や知識が結集する、より大きなサイズのコアとして、本領域全体を分担・公募研究者とともに作っていく。公募研究においては、本領域の主テーマではないが領域の発展に必須の技術開発、例えば電子や音波を扱う研究者を組み入れることを考えている。これにより光と電子、光と音のコラボレーションを図る。またライフサイエンス以外の分野(たとえばソフトウエア開発)からの参加を促すことも考えている。

研究成果の発信は基本的に2つの戦略で行う。第一に、技術開発および発見などの成果は論文およびWebを使って世界に発信する。第二に、バイオイメージングの技術と知識(本領域の成果物および一般的なもの)の普及については、わが国の研究者に向けて行う。こうした国内普及において、新しい試みとして画像処理を取り上げる。「プログラムコンテスト」、「正解つきのデータベース構築」、「画像処理プログラムのソムリエ」の3つを試行し、近未来の4D計測に対応すべき、ImageJを超える画像処理ソフトウエアをわが国に広めることを一戦略とする。

Ⅱ.具体的な研究内容

以下4つをテーマに連携体制を計画している。

超解像イメージング

当技術は2014年ノーベル化学賞の受賞対象となったが未だ発展途上にある。課題の一つに「深部超解像」がある。すなわちbasal側の細胞表面だけでなく、カバーガラス表面から相当に離れて存在する構造(核内構造体、ゴルジ体、あるいはapical側の細胞表面)の光学観察の空間分解能を上げる試みである。細胞内屈折率の不均一性によって収差が生じ、カバーガラス表面から離れるに従ってPSF(点像分布関数)が歪むのが一因である。そこで、神谷と根本が連携を行う。本領域で神谷が開発する明滅プローブは全視野照明による「局在化法」が適用の基本となっているが、根本のマルチビームスキャン方式(ベクトルビームおよび波面補正技術)が適用できないかを試す。逆に、本領域で根本が目指す分子配向イメージングに適した蛍光色素を神谷が開発する。宮脇もこの連携に参画する。宮脇は、固定サンプルの微細構造を保持したまま透明化できる試薬を開発しており、固定細胞全体におけるPSF向上を狙って神谷と連携する。また、蛍光タンパク質による細胞内オルガネラの配向特異的標識に成功しており、根本と連携する。

生体深部イメージング

生きた生体組織の深部イメージングを可能にするために、実践的な長波長化を連携して行う。曽我による無機蛍光色素(OTN-NIR)開発は、生体イメージング実践者(宮脇ら)からのニーズを受けて、表面修飾(色素のbiocompatibility, delivery, targeting)を検討する。宮脇は、研究分担者の牧と共に、発光タンパク質の長波長化(> 700 nm)を行う。赤色の蛍光タンパク質のライセンスフリー化はまだ先のことであり、成果物を日本の産業界に普及させる意味で、これら一連の開発研究は重要な国家使命と言える。その応用として、宮脇は松田と連携してFRETバイオセンサーの長波長化、今村および根本と連携して新規レーザー光源による2光子励起イメージングを行う。さらに、こうした長波長プローブを検出(励起)するための光学顕微鏡システムを本領域全体で構築し、さらに根本らが開発中の生きた組織における光散乱を減弱する試薬などを用いることで、従来の限界を超える生体深部イメージングに松田、今村が挑む。

ストレスイメージング

「ストレス」は曖昧な言葉である。ストレスに関連する現象を様々なプローブで可視化することで、ストレスの新生面を切り拓くことを本領域で目指す。カバーガラス上の培養細胞(多細胞生物由来)は相当のストレスを感じながら生きているのであり、in vitroとin vivoの両系をまたぐ本領域で扱う格好のテーマである。酸化ストレスを例に挙げる。宮脇は蛍光タンパク質を材料に様々な酸化ストレスプローブを作製している。一方で、細胞が持つ抗酸化作用を可視化することも必要である。神谷は、細胞質における抗酸化作用を示すGSH(還元型グルタチオン)を定量するプローブを開発する。宮脇は、膜における抗酸化作用を示すビリルビン(非抱合型)を定量するプローブを、ニホンウナギ由来のUnaGを材料に開発する。松田らはストレスキナーゼの活性を測定するFRETバイオセンサーを開発しており、今村は、これらのプローブを使って、癌におけるストレス現象について理解を深めるように連携研究を進める。

ズーミングインアウト

上記3テーマは、主に4Dイメージングを狙うものであり、対象空間のスケールは様々である。計画研究代表者の扱う空間スケールは、細胞内微細構造(神谷)―細胞(神谷、松田)-組織(根本、今村、松田)-器官(根本、今村、曽我、松田)-個体(曽我)と大体に整理される。異なる空間スケールの画像データを処理しながら、ある文脈で小空間スケールのデータを大空間スケールのデータに包含させることを試みる。意味のあるズーミングインアウトを提供するデータベースの構築に本領域全体が連携して取り組む。横田と宮脇が連携を先導する。

有機的連携を図るための具体的方法

本領域内で、生体分子を制御する研究者と電磁波を制御する研究者とが相互作用を起こすことで、「共鳴」に関する技術を飛躍的に向上させ、それを生物学に応用展開する。それぞれの研究者が、生物学的および技術的な基本的問題に取り組み、領域内で共通及び相補的な問題を抱える研究者の成果を組み合わせることで、新たな技術の応用展開が達成されることとなる。

本申請研究領域の研究成果は世界に向けて発信し、生物学のある分野に革命をもたらすことを目指す。さらに開発した技術の利点を多くの生命科学研究者に理解してもらうことにある。項目A01の研究者がプローブの開発を進め、同時に項目A02の研究者がそうしたプローブに至適な光学機器(ソフトウエア)を開発し、技術供与ならびに情報提供を行う。一方、公募班には、そのような技術を用いた生命科学におけるブレークスルーとイメージング技術に関わるフィードバックを期待する。

研究領域として、①研究会・内部評価会、②若手ワークショップ、③様々な学会においてシンポジウム・ワークショップの共催、④国際シンポジウムの開催、⑤イメージング実技講習会、⑥Web上での技術サポートシステム、などの定期的な活動を行い、様々なレベルで有機的連携を図る。

ページのトップへ